蓝宇

 今回のタイトルは香港映画。カタカナで書くとランユーだが、そのまま言っても中国人には全く通じなかった。Yuの発音がどうも難しい。

 

 私はこの映画がたまらなく好きで、折に触れて何度も観ている。簡単に表現してしまうとゲイの悲恋物語。全編通して暗く地味な雰囲気、ゲイ映画お決まりのバッドエンドなので、どうにも周囲には大っぴらに紹介し難い、好き嫌いの分かれる映画だと思う。

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 主人公・陈捍东はバイセクシャルで、自己本位に生きるやり手のビジネスマン。おそらくはハンサムでお金持ちで男にも女にもモテモテ設定。なんだか船越英一郎中井貴一を足して割ったようで、親近感が湧くような、そうでもないような。

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わりとイカホモじゃないだろうか。

 

そして相手役(ネコ)が映画のタイトルにもなっている蓝宇くん。刘烨演技真好!

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大学で建築を学ぶため、東北の田舎から北京に出て来たばかり。素直で真面目で純真無垢で、何度浮気されても裏切られても一途に陈捍东を想う青年である。料理ができて、陈捍东の家族とも打ち解け、ピンチの時は助けてくれる、まさに理想の嫁。今風にいうならスパダリ。

 

 先に好き嫌いが分かれる映画と述べたが、この蓝宇というキャラクターに対して「なんて健気でいじらしいんだ、尊い」と思うか「こんな男がいるわけなかろう、BLは二次元でやってくれ」と思うか、ここが分水嶺かもしれない。

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こんなキャプチャでは半分も伝わらないだろうが、本当に可愛らしいんだ彼は。

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お風呂に入る二人。蓝宇のうっとりしたような表情と、陈捍东の優しい手つきがたまらない名シーン。

 

 中国ではかなり有名な映画で、主演の胡军と刘烨はこの作品を機に大出世しているようだ。それも納得、この二人の演技は文句なしに素晴らしい。スタンリー・クワン監督は撮影しながら感動したと語り、これ以降3作連続で胡军を起用している。この監督はゲイをオープンにしているし、単に好みだったのかもしれないが。

 胡军も刘烨も180cmを超える大柄な俳優なのだが、蓝宇が乙女過ぎるせいかゲイというよりむしろBL。原作「北京故事」の著者は女性だから当然といえば当然か。

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ちなみに個人的には胡军はRed Cliff の趙雲が最高に男前だと思う。

 

 忘れてはならないのが、この作品は中国最大のタブー天安門事件に触れていることだ。原作の小説では蓝宇は大学の仲間と共にハンガーストライキに参加し、事件当日は隣で次々と銃弾に斃れる学生たちを目の当たりにしている。映画の中では彼は何も語らず、陈捍东と無事を確かめ合って泣くのだが、台詞の無いそのシーンに溢れる情動に何度見ても胸がいっぱいになる。

 自由を求めてストに参加していた時、同性愛者故の生きづらさを考えていたのだろうか。若者達は真っ直ぐに未来を見ていて、そこに自分が存在しない可能性には気づいていなかったに違いない。私が天安門広場を訪れたのは大学生の時だったが、この映画を観る前だったのが悔やまれる。